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ちょっと待った!本当に相続放棄しても大丈夫?

今回は相続放棄が生んだひとつの悲劇をご紹介させて頂きたいと思います。

 

A子さんは、夫が亡くなったときの相続人はA子さんと長男さんだけだったのですが、「これからは長男に生活の面倒を見てもらうのだから」と夫の名義だった土地・建物に対して、すべてのA子さんの相続分を放棄し、長男に全財産を相続させました。

ところが1年後、亡き父の相続財産全てを相続したその長男が交通事故で急死しました。日頃からA子さんとはあまり折り合いの良くなかった嫁(B子さん)は、孫と一緒に、家を出て行ってしまった。

その嫁(B子さん)が、長男の四十九日を過ぎてから、「土地・建物を含め、夫(長男)の遺産は全部自分たち親子のものだから、お母さん(A子さん)は家から出て行ってください」と言ってきた。

 

<解説>

A子さんには、「お気の毒!」と言うしかありません。このお嫁さんの言い分は、道義的・道徳的にはともかく、残念ながら法律的には全く間違ってはおりません。

つまり、長男が亡くなったときの相続人は、嫁(B子さん)とこの子供が第1順位であり、親であるB子さんは第2順位のため、第1順位の相続人がいるので相続分がありません。

もし、長男夫婦に子供がなければ、遺産は嫁(B子さん)が2/3、親(A子さん)が1/3の割合で相続するのですが、子供がいれば、嫁(B子さん)と子供が1/2ずつ相続することになり、親(A子さん)には相続分がないのです。

仮に、長男の相続財産の中に、先祖代々伝わる世襲財産が含まれていたとしても、遺言がない以上、法律上どうしようもないのです。

今回のケースでは、A子さんに身寄りがなければ、寒空の下に放り出されることになり、そのお嫁さん(B子さん)は「鬼嫁」という悲劇は免れないとは思います。

仮に、うまく話がまとまって、A子さんがそのまま家に住めることになったとしても、「気兼ねなく・余生を楽しく」ということには、程遠い話になってしまうでしょう。

さらには、嫁(B子さん)が再婚して、赤の他人(嫁の再婚相手)がその家に住むようになることもなくはないでしょうし、あるいはその土地・建物が不要だということで、売却されたりすれば、それこそA子さんは行き場をなくしてしまいます。

実は、子供が親より先に死亡する今回のようなケースは少なくありません。

この世の中、何が起こるかわかりません。A子さんには酷な言い方ですが、配偶者(夫)が亡くなった相続分を放棄すべきではなかった考えられます。

これは、相続放棄ばかりではなく、生前贈与でも同じことが言えます。「長男に面倒を見てもらうのだから、今のうちに、土地・建物を長男名義に変更をしておこう!」

その気持ちもわからないでもないですが、名義変更したあと長男が自分より先に亡くなるということは、可能性がないわけではありません。

長男が財産を取得して自分(親)たちよりも先に逝ったときはもう、自分(親)の財産ではないのだということをよく自覚しておいてください。

今回の場合のように、将来起こりうること(息子の死)によって意図していた結果とは全く違った悲劇が生じる場合があります。

相続放棄は民法第915条第1項(自己のために相続があったことを知った時から3ヵ月以内)の期間内でも、基本的に撤回することはできない法律行為になりますので、申し立てる際にはあらゆる可能性を十分踏まえた上で改めて検討する必要があると言えます。

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