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負担付死因贈与の撤回について
[Question]
私は、父との間で、私が勤務先に在職中は、毎月父親に送金をする代わりに、父が死亡したときは父の遺産をすべてもらうという約束をしました。
私は、約束どおり、勤務先を退職するまでの約18年間父に送金を続けました。私が勤務先を退職してから間もなく父は死亡しました。ところが、父は死亡する数年前に所有する不動産を生前親しくしていたA女に遺贈するという遺言をしていたことが分かりました。
A女は、遺言は新しいものが有効だからこの不動産は自分のものになるというのですが、納得できません。本当にこの不動産はA女のものになるのでしょうか。
不動産の登記名義人は父のままで、母はすでに亡くなっており、他に相続人としては私の弟が一人います。
[Answer]
死因贈与の撤回・・・あなたが、父親とした約束は、たとえ口頭であっても死因贈与契約(民法554条)にあたります。
死因贈与契約とは、贈与をする者の死亡により効力を生ずる契約のことをいいます。本来、契約というものは、いったん成立したら契約当事者の片方の都合で勝手に契約がなかったものとすることはできないのが原則です。
ところが、死因贈与契約は、贈与者の死亡により契約の効力が生ずるという特殊性から、遺言と似たところがあり、死因贈与契約をした人の最終意思を尊重すべきであると考えられることから、贈与者が自由に撤回(将来にわたって効力を有さないものとすることで)できると解釈されています。
そして、この贈与の撤回をするにあたっては、特別の方式はありません。死因贈与契約の内容と抵触する新たな遺言をしたことによっても撤回をしたことになります。つまり、誰かが死んだら何かをもらうと約束しても、その効力は不安定なものに過ぎないわけです。
負担付死因贈与の特例・・・ところが、本問の場合、あなたは18年間にわたって、父親との約束どおりの送金をしたのですから、父親が自由にこの契約を撤回できると考えるのは何か不合理な気がします。あなたが父親とした約束は、単純な死因贈与契約ではなく、毎月父親に送金するという負担付の死因贈与契約です。
負担付贈与契約とは、贈与を受ける者が贈与をする者に対して何らかの給付を追う贈与契約のことをいいます。
最高裁昭和57年4月30日判決も、負担付贈与契約に関して、負担の全部またはそれに準ずる程度の履行をしたときは、契約締結の動機、負担の価値と贈与財産の価値と相関関係、契約上の利害者間の身分関係その他の生活関係等に照らし、契約の全部または一部を取り消すことがやむ得ないと認められる特段の事情がない限り、撤回は認められないとしています。
そこで、あなたの場合も、このような考え方から、父親が一方的に死因贈与契約を撤回することは認められないことになるでしょう。
登記による優劣・・・しかし問題の不動産のA女への遺贈もまた有効です。
したがって、父親からあなたへの死因贈与とA女への遺贈は、双方とも有効であり、どちらかを優先して認めるべきかといういわゆる二重譲渡の関係にあたりますから、先に登記を得たほうが不動産の所有権を相手方に主張しうることになります(民法177条)。
不動産の移転登記を得るためには、父親の相続人である弟さんの協力が必要ですから、弟さんと話し合われて早く登記をすることをお勧めします。
A女は遺言書により単独で所有権移転登記をすることが可能だからです。もし、A女が先に登記してしまうと、あなたは、所有権取得を主張できなくなります。
なお、弟さんが登記に協力してくれない場合は、弟さんを相手に、登記請求権を保全するためにまず処分禁止の仮処分を得たうえで、死因贈与を原因として所有権移転訴訟を提起することにより、あなたは不動産の所有権を取得することができます。