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遺言書で相続した財産の売却について
[Question]
先日、私の父が死亡しました。父の主な遺産は、不動産、預金、現金などですが、そのうちの不動産については、私に相続させる旨の遺言書がありました。
私には、母と兄一人、弟一人がおりますが、母や他の兄弟との間の遺産分割協議が現在までまとまっておりません。私としましては、急にお金が必要となり、何とか父が私に残してくれた不動産を売却したいのですが、遺産分割協議がまとまらなくても売却できるでしょうか?
[Answer]
「相続させる」との遺言の解釈・・・本問の場合、あなたは、遺産分割協議がまとまらない場合でも、不動産を売却することができます。あなたのケースでは、お父さんが不動産をあなたに相続させるという趣旨の遺言が書かれた場合、その法的性質をどのように考えるかが、まず問題となります。
この点について、判例は、これを遺産分割方法の指定(民法908条)と考えています。
つまり、質問のような遺言を受けた特定の相続人も、相続人である以上、当然に、他の相続人と共同で遺言の対象になった特定の遺産を相続する地位にあるわけですが、質問のような遺言をした遺言者(この場合は、お父さん)の合理的意思は、特定の相続人(あなた)に特定の遺産(不動産)を、他の相続人と共同にではなく、単独で相続させるために、その旨の遺産分割方法を指定したところにあると考えるのです。
遺産分割協議の要否・・・ところが、このように、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言を遺産分割方法の指定であると考えた場合には、遺言を受けた特定の相続人が特定の遺産を取得するためには、相続人間での遺産分割協議(ないし、それに代わる審判)が必要となり、あなたのように遺産分割協議がまとまっていない段階での遺産の売却はできないのではないかとの疑問が出てきます。従来の下級審裁判例の主流は、このような考え方に立っていました。
しかし、本問のような遺言がされた場合に、遺産取得の要件として、遺産分割協議を要求してみてもまったく意味はありません。他の相続人も遺産分割方法を指定した遺言に拘束されるわけですから、遺言に反した遺産分割協議はできないからです。
そうだとすれば、遺産取得の効果(質問の場合には不動産の所有権を取得すること)は、遺産分割協議が成立したかどうかに関係なく、遺言の効力発生時(被相続人の死亡時)に認めてもよいはずです。
近時、最高裁もこの考え方を採用し、特段の事情がない限り、被相続人の死亡の時に遺産取得の効果が発生するとしています。
したがって、本問の場合、あなたは、お父さんが亡くなられた時に、不動産の所有権を取得したことになり、遺産分割協議が仮にまとまらなくても、単独でこの遺言書に基づいて、相続を原因とする所有権移転登記を経て、それらを第三者に売却することができるわけです。
ただし、本問の不動産が全財産に対して占める割合が多く、他の相続人の遺留分を侵害する結果になる場合には、遺留分を侵害された相続人から遺留分減殺請求権の行使を受ける場合がありますので、注意が必要です。
「遺贈」の場合・・・なお、本問は、遺言書に「相続させる」という趣旨が書かれているケースですが、遺言書に単に不動産を「遺贈する」と書かれている場合には、本問の場合とは違って、遺贈を受けた人は、単独では所有権移転登記を経由することができません。
したがって遺贈を受けた人は、遺言執行者がいる場合はその遺言執行者に、いないときは他の相続人に、それぞれ登記手続義務の履行を求める必要があります。