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預貯金の遺産分割について

~Question~

先日、夫が亡くなりました。遺産の中に預貯金があるのですが、払い戻し請求はできますか。

 

~Answer~

 

●判例と金融実務

預貯金などの金銭債権については、判例によると、相続の開始と同時に法定相続分に応じて当然分割され、各相続人に移転するとされています。また、遺産分割後は、分割の内容に従って各相続人に相続の開始時にさかのぼって移転します。さらに特定遺贈された場合は、相続の開始時に預貯金は受遺者に移転することになります。判例の立場では、これらの相続人や受遺者は、金融機関に対して、相続人あるいは受遺者であることを証明することで、預貯金の払い戻しや名義書き換えを請求できることになります。

しかし、実際の金融機関の実務では、このような判例の立場には従っておらず、事後的に何らかのトラブルが発生し金融機関が免責されないことを防止するために、厳格な手続を要求しています。また、払戻しや名義書換の具体的な手続きは各金融機関によっても異なります。また、支店や担当者、そして払戻請求者と金融機関との関係などによっても異なりますので、その手続については事前に金融機関の担当者に問い合わせをする必要があります。

 

●遺産分割前の払戻請求

相続人が金融機関に対して預金の払戻の請求をする場合、原則として金融機関は、共同相続人全員による払戻の請求の方法をとることを求めます。その際必要な書類は以下の通りです。

 

1. 相続人全員名義の払戻依頼書

 

2. 被相続人の除籍謄本及び相続人全員の戸籍謄本

 

3. 相続人全員の印鑑証明書

 

4. 預金通帳、被相続人の届出印

 

したがって、相続人の1人が他の相続人に無断で預金全額の払戻の請求ができないことはもちろんですが、その法定相続分の範囲内であったとしても、他の共同相続人の協力を得て相続人全員で払戻の請求をする必要があります。

 

●遺産分割後の払戻請求

遺産分割協議が行われた場合には、相続人は適法な遺産分割協議が行われたことを金融機関に明らかにして、払戻請求をすることになります。その際に必要な書類は以下の通りです。

 

1. 遺産分割協議書

 

2. 相続人全員名義の払戻依頼書

 

3. 被相続人の除籍謄本及び相続人全員の戸籍謄本

 

4. 相続人全員の印鑑証明書

 

5. 預金通帳、被相続人の届出印

 

●遺言があるケースで遺言執行者のいない場合

被相続人は遺言により、その預貯金を特定の相続人もしくは第三者に遺贈することができます。この場合、受遺者は相続の開始時からその預貯金を取得することになり、受遺者は金融機関に対してその払戻請求ができます。その際は以下の書類を金融機関に提出します。

 

1. 遺言書またはその写し

(公正証書遺言以外の場合は裁判所の検認調書を求められる場合があります)

 

2. 遺言者の除籍謄本

 

3. 預金通帳または証書

 

4. 受遺者の印鑑証明書

 

金融機関によっては、この他に受遺者に対する払戻しについての相続人全員の同意書並びに印鑑証明書を求められる場合があります。

 

●遺言があるケースで遺言執行者のいる場合

遺言執行者がいる場合は、各相続人は遺産の処分をすることができません。したがって、預金の払戻しなどは遺言執行者が行うことになります。

遺言執行者が金融機関に対して預金の払戻の請求を行う場合には、次の書類が必要になります。

 

1. 遺言書またはその写し

 

2. 遺言執行者が家庭裁判所で選任された場合にはその審判書謄本

 

3. 被相続人の除籍謄本

 

4. 遺言執行者の印鑑証明書

 

5. 遺言執行者名義の払戻依頼書

 

なお、この他に、相続人全員の払戻同意書や払戻依頼書を要求される場合がありますが、本来、金融機関は相続人の同意の有無にかかわらず遺言執行者からの払戻請求には応ずるべきと考えられています。

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