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相続放棄の熟慮期間について

一人暮らしの私の父が2年前に死亡しました。遺産としては、自宅の土地家屋(1000万円相当)があるだけだと信じ、何ら手続きもしませんでした。ところが、先日、父が生前5000万円の借金の保証をしたとして私に対する訴状が裁判所から届きました。父とはかなり以前から別居しており、まったく事情が分からなかったのですが、今から相続を放棄できないでしょうか。

 

相続の種類・・・相続財産には、不動産、現金、預貯金等の積極財産だけでなく、借金等の消極財産も含まれますが、相続するかどうかは相続人の自由で、積極、消極一切の相続財産を相続する単純承認、消極財産の限度で債務を相続する限定承認及び相続放棄のいずれかを選択することができます。

 

熟慮期間の起算点・・・相続放棄は、相続人が相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません。この熟慮期間内に放棄しなかったときは、相続人は単純承認したものとみなされます。そこで、「相続の開始があったことを知ったとき」とはいつかが問題になります。

 

(1)伝統的解釈・・・熟慮期間の起算点は、相続人が①相続開始の原因事実(被相続人の死亡等)と②自分が相続人となったことの二つを知ったときであるというのが伝統的解釈でした。しかし、これでは、相続人が知らないうちに莫大な債務を相続し、なかには本当に気の毒な場合もあるので、問題になっていました。

 

(2)最高裁昭和59年4月27日判例・・・この判決は、従来の厳格な解釈を緩め、熟慮期間の起算点につき次の例外を認めました。すなわち、A.相続人が被相続人に相続財産がまったくないと信じたこと、B.相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があったこと、C.相続人がないと信じるにつき相当な理由があることの三つの要件のあるときは、熟慮期間の起算点は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識することができるときであるとしました。

この最高裁判決の趣旨は、熟慮期間とは相続人が承認または放棄の判断をなすための期間であるから、その判断の前提条件が欠けている場合も例外的に救済しようというものです。

 

下級審判例の動向・・・前記最高裁判決の後、下級審判は、最高裁の設定した例外要件をさらに緩めるものもいくつか見られます。いずれも、3ヶ月を過ぎた相続放棄の申述を受理すべきものとした裁判例ですが、農家は長男が継ぐものと誤信し、そのことに受理からぬ事情があるとき、相続財産の一部を知っていたが、生前に相続財産の一切を他の相続人が取得するとの合意があり自分が相続する財産はないと信じていたとき、相続財産の存在(自宅)を知っていたが、自分は生前贈与を受けており、兄がすべての遺産を相続する旨の協議ができ、自分が相続すべきものはないと信じていたとき、相続債務の債権者である銀行が遺言執行者となって財産目録を作成し、長男がすべてを相続する分割協議をしたので、妹は自分が相続する財産はないと信じていたが、財産目録に記載されていなかった債務のあることが判明したときなどがあります。

 

本問の場合・・・最高裁の考え方からすれば、あなたには積極財産の認識はあったので、例外の適用はなく放棄はできないことになりますが、最高裁の例外要件を緩める下級審判例が増えていくことになると、本問のように、債務の存在だけを知らなかった場合でも、相続人が承認または放棄の判断をなす前提条件が欠けているという点では差異がないので、相続の放棄を例外として認められるようになる可能性があります。

 

放棄申述受理の実際・・・ところで、相続放棄申述の審判手続きでは、一般に広く申述を受理しておくべきだと解されているので、本問の場合でも、後に争われる可能性はあるとしても、放棄申述の申立てはしておくべきだと考えられます。

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